銀の光と碧い空の雑記

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寒剤(液体窒素、液体ヘリウム)について

物理学アドベントカレンダーの5日目になります。

物理学 Advent Calendar 2014 - Adventar

前回の記事ではヘリウム3についてとりあげましたが、その中で固体もしくは液体のヘリウム3は超低温でのみ存在すると書きました。では、どうやってそのような超低温に到達するか?ということに触れてみたいと思います。まず今回は寒剤として、液体窒素、液体ヘリウムについて話してみます。

液体窒素

わりと有名ですね。大気圧化で液体窒素の沸点は 77K (−196℃)です。絶対零度近辺に到達するための実験装置の第一段階の冷却材として使われています。冷却材に限らず、なぜ使われるかというと...

  • 安い。空気を冷却し液化したのち、酸素と二酸化炭素を分留して作るため。少量購入するのであれば1000円/Lという記述をネットで見つけたりしますが、実験とかで大量購入しているともっと安くなります。
  • 化学的に安定。液体酸素や液体水素などもありますが、これらは助燃性であったり可燃性であったりと取扱いが難しいです。その点窒素は比較的安定しているため、取扱いやすいという利点があります。ただし、決して安全なものではありません。

の2点が大きいかと思います。

決して安全なものではないと書きました。これは液化ガス全般に言えることですが、少量の液体でも蒸発すると大量のガスになるということです。密閉容器に液体窒素を入れておくと、それが気化して内部の圧力があがり容器が爆発するおそれがあります。 また、容器は開放されていても液体窒素を扱う部屋の喚起が不足していると、発生する窒素で酸素が追い出され酸素濃度が低下し酸欠状態になっていまうことがあります。そのため、実験装置のあるところまで液体窒素を運ぶ際にエレベーターを使う場合、液体窒素は無人の状態で運ぶことになっていたりします。

さて、この液体窒素、小学生向けの実験とかパフォーマンスで見たことがある人も多いでしょう。少量であれば皮膚についても安全なので、コップ一杯飲むパフォーマンスも見かけます*1。が、大量の液体窒素がかかると凍傷の危険が高まります。 そのため、布製の手袋で液体窒素を扱うのは危険です。気づいたときには、大量にしみこんだ液体窒素で手袋で固まり、外せなくなってしまいます。革製の手袋を使うのがよいです。

液体ヘリウム

液体窒素で 77K まで下げたところで、そこからさらに冷却するには液体ヘリウムを使います。前の記事でヘリウム3とヘリウム4があると書きましたが、ヘリウム4を使います。ヘリウム3は冷却材として使うにはあまりに希少で高価すぎます。

液体ヘリウムの沸点は-269℃(約4 Kです。じゃあ、なぜ液体ヘリウムだけでなく液体窒素を最初に使うかというと、ヘリウムが窒素と比べて高価であることと、沸点が低すぎてすぐ液化してしまうため室温から冷やすには不向きだからです。

なお、ヘリウムは液体から気体になるときの潜熱*2よりも、顕熱*3の方が70倍程大きいため、液体だけでなく、液体から気化したばかりの気体も使って冷却すると効率がよくなります。

この液体ヘリウム温度まで下げると、超電導状態になる物質が多数あります。そのような物質を使って電磁石を作ると非常に強力な磁石が作れます*4。これがいわゆる超電導磁石で、病院のMRIやリニアモーターカーに使われます。つまり、MRIやリニアモーターカーでも液体ヘリウムや(それを補完する)液体窒素が使われています*5

ちなみに、この超電導磁石、なんらかのはずみで超電導状態が失われると、電気抵抗0で流れていた大電流が突然発生した電気抵抗によるジュール熱を発生します。そして、このジュール熱はまわりの液体ヘリウムをすさまじい勢いで蒸発させるため、割と派手な事故が起きます*6

この現象をクエンチというのですが、最後にYouTubeのクエンチ動画を貼り付けて今日のアドベントカレンダーの締めにします。


超伝導磁石のクエンチ


MRI装置がクエンチ

*1:室温と温度差が激しいため、液体窒素と皮膚の間に激しく沸騰する薄い層ができて、温度が伝わりにくくなるため

*2:気化熱。夏の日に水を道路に撒くと気化してすずしくなるのと同じ原理。

*3:沸点である-4Kから室温である300Kまで気体が熱せられるときにまわりから奪う熱

*4:実際には電磁石として加工しやすい物質かつ磁場(磁石の強さ)が大きくても超電導を維持できる物質が選ばれます

*5:医学・工学的な話は実際見てないですが、調べた範囲では

*6:当然安全装置はあるはずですが

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